鴨居駅南口から約15分。県道を左に曲がり、住宅街を抜け緩やかな坂道を登っていくと、鴨居中学校が見えてくる。全校生徒が500人規模の中規模の学校である。学校に到着すると、すぐに永岡副校長と齋藤校長が出迎えてくれた。院生である私に対しても終始、懇切丁寧な対応で鴨居中学校での実践例や校長先生のお考えを教えてくださり、多くの学びをいただくことが出来た。この場を借りて改めて感謝を申しあげたい。
さて、今回、筆者がこの鴨居中学校を訪れた目的は、
① 特別支援教育の推進
② ICTの推進
③ 校長先生の学校経営
について伺いたいためであった。以下、①や②に対してどのような考えを持ち、③を実践されているのかという流れで、筆者の主観も交えながら簡単ではあるが、記述していきたい。
① オルタナティブとアダプティブな視点を持った特別支援教育の推進
鴨居中学校は、学校スローガンとして「進化・深化・新化〜新しい社会へ向けて、進める・深める・生み出す〜」を掲げており、学校として「認め合い学び合う〜生徒が主役〜」と「より良い生き方を求めて〜キャリア形成〜」という2本の柱を掲げている。その前車の柱の一つの具体として、特別支援教育がある。
私が感じた鴨居中学校の特別支援教育の特徴は、その概念にある。特別支援教育とは、簡単に言うと「一人一人のニーズに応じた教育」を行っていくことである。しかし、学校では人的要因や物的要因の問題があり、実際は学校としてできる範囲での特別支援教育を行っていることが多いのではないか。
しかし、鴨居中学校は、一人一人の生徒の実態に合わせて学習内容を提供するような、オルタナティブとアダプティブな視点を持った特別支援教育を目指しているのである。特に印象的であったのが、齋藤校長がおっしゃっていた「学校に来る・来ないという概念はない。あなたは鴨居中の生徒だから、学習はどこでもできる。学習や進路について相談に乗ることで、初めて登校する機会が生まれる」という言葉であった。つまり、学校に来ることは目的ではなく手段の一つに過ぎないのである。目的は、生徒一人を鴨居中の生徒として尊重し、認めていくことにある。この齋藤校長の考えに多くの生徒や保護者、そして教師も救われているのではないかと感じる。不登校が社会問題になっている現在、私たちの概念を見直し、それに適した環境整備を進めていくことはとても重要なことなのではないだろうか。
このような考えにおいて必要なシステムとして、オンライン学習支援ツールの「デキタス」があるのである。鴨居中では、不登校などの特別な支援が必要な生徒に対して、特別支援教室(和なごみルーム)でデキタスを使い、個別最適化の学習を運営しているのである。
和なごみルームの学習机
このパーテーションは1万8千円で買えるとのこと
生徒の学習計画表
なごみルームの支援員(外部委託)の方と一緒に計画的に学習を実施している
② ICT推進の秘訣は『普段使いの積み重ね』
まず、和なごみルームでのICT 推進の例を紹介したい。デキタスを使うだけでも、十分な推進であると思うが、それを取り巻く環境面での工夫がさらに驚きであった。このような取組をすると、どうしてもトラブルが発生してくる。今後改善されていくと思うが、現在の横浜市では、Wi-Fiの通信速度の問題やICT支援員の問題など、ヒト・モノ・カネでの問題が発生するのだ。
しかし、鴨居中は齋藤校長が自ら研究推進校に名乗り出ることで、この問題を解決しているのだ。だが一方で、報告書が大変なのではという疑問を持たれるかもしれないが、それも校長自ら作成し提出しているとおっしゃっていた。物凄いバイタリティーである。
具体的には、横浜市のタブレット配当とは別にフリーで使えるタブレットが12台(このうち2台はLTE回線)、ポケットWi-Fiが4台、なごみルーム専用の学習支援員2名の配置、週1回のICT支援員(9〜17時の勤務)という環境が整っている。このプラットフォームが整うことで、和なごみルームをはじめ、授業での実践にも繋がり易くなるのであろう。研究校になることで、環境面で受けるメリットは大きいのである。
では、次に授業でのICT推進についての紹介をしたい。学校として、環境が整っても、それを使う教師がICTに興味がなければ学校としての推進は進んでいかない。これに対して齋藤校長は、全職員に対して「何も特別なことをするのではなく、普段使いの積み重ねをしましょう」ということを話し、推進を意識させたのである。つまり、新しいことをやるのではなく、今やっていることのまとめからスタートしたのだ。校長のこの発言により、ICTが苦手な職員のハードルもかなり下がったのではないだろうか。また、その具体的な取組として、各教科の単元ごとのICT状況を調べ、一覧表にまとめていた。これにより、どれくらいICTを利活用できているのかを一目で見ることができると同時に、自分たちがどこまで出来ているかを確認し合うこともできるのである。
タブレット実践表
タブレットを使った教科担任は、この表に記載する。それを年間指導計画の中に落とし込 み、教科ごとの使用状況が見える化されていた
そして、今年度中に、すべての学校でGIGAスクール構想が実施され、一人一台のICT端末が導入される。普段からICTを使っていれば、GIGAスクールが来ても慌てることはないだろうし、新しいシステムが導入されても、更にそこから新しいアイデアが浮かんだり、閃いたりしていくのであろう。このように、ICT推進に向けては、プラットフォームの整備と同時に、地道な取組の積み重ねが重要になるのである。
cocooも導入
その他、ミライムも導入している
③ サーバントリーダーシップを感じる学校経営
これだけの改革を推進している鴨居中学校の校長である齋藤先生はどのような意識で学校経営をしているのだろうか。一見、これだけの改革を推進しているので、トップダウン型のリーダーシップを発揮しているように見えるかもしれないが、話しを伺う中で見えてきたのはサーバント型のリーダーシップであった。
まず、齋藤校長は、赴任した1年目に働き方改革の研究推進校に応募したというように、職員の働き方や育成をとても気にかけていらっしゃる方であった。そのため、新しいアイデアを実施する際には、それぞれのアイデアやすでに実践していることの共通点を見つけ、新たなものとして実施していくやり方を取っており、これが鴨居式であるとおっしゃっていた。スクラップ&ビルドの新しい発想であると感じた。筆者のイメージであるが、研究に対して中学校の職員は多忙感が増えるイメージを持っているように感じるのだが、これならば、そのようなイメージを持っている職員がいたとしても受け入れやすいものになるのではないか。
また、働き方自体も工夫が見られた。下の写真は校長先生が自身の思考を整理するために作成したホワイトボードである。付箋を見事に利用し、自分の予定をセルフマネジメントできるTodoリストを作成していた。そして、このようなスキルは校長先生だけでなく、鴨居中の職員は身につけているという話であった。さすが働き方改革推進校である。
思考が見えるホワイトボード
さらに、齋藤校長は人材育成にも熱心である。校長先生の自主研修会を企画し、年に何度も実施しているのである。1年目の時には、Googleの本社などを含む企業に出向き、セルフマネジメント、ICT環境、オフィス環境について見て回ったという。ちなみに今年度は、2本柱の一つでもある特別支援教育にフォーカスしており、すでに先日明蓬館高等学校関内・横浜SNECに見学に行かれていた。このように校長自ら自主研修を開き、数名の先生を引き連れて見学に行くのである。また、意図的に若手の職員を連れていく時もあるとおっしゃっていた。
学校はどうしても閉じられた空間であるため、自分たちの実践や考えが社会に適したものになっているのかを、適宜見直していく必要があると感じている。そのため、自ら学校の外に身を置き、新しい主観を取り入れ、自らの主観と新しい主観を繋いでいくことはとても重要なことだと考えられる。このような研修の機会があれば、自ずと職員は刺激を受け、主体的に新しい試みを実施していこうという前向きな気持ちになるはずである。これも齋藤校長の学校経営の手腕の一つなのであろう。
簡単にではあるが、以上が今回の鴨居中学校の報告レポートになる。ここでは書ききれなかった、今年度の新たな取り組みもある。2本柱の一つでもあるキャリア教育については、新たな鴨居プランの作成を考えているとのことであったし、特別支援教育では、現行の和なごみルームにプラスして、アウトリーチによる学習支援を組み合わせた鴨居ダブルアクションを実施していく予定だとおっしゃっていた。常に、学校を改善していこうという意欲や、横浜市の中学校でもここまでできるのだということを見せてくれた齋藤校長には本当に感謝であった。今後の鴨居中の活躍に注目していきたい。
鴨居中学校Facebook
https://www.facebook.com/kamoilove
「チーム神奈川」 学校のオンライン推進チーム
横浜国大教職大学院有志団体が、神奈川県の公立学校のオンライン化を目指し、推進チームを立ち上げました。横浜国立大学教職大学院の強みを活かし、私たちにしかできないようなオンライン化推進の手段を考え、活動しております。
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